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下辺の題字の右上に「わ多奈遍わたなべ」の印、左下に年記が見えます。「わたなべ」は、絵師えし・彫ほり師し・摺すり師しの分業を大正期に復活させた木版画の版元・渡邊わたなべ庄三郎しょうざぶろうです。12月7日の夕暮れ、巴水と庄三郎は銀座を歩いていましたが、三十間堀ざんじっけんぼりにいたったところで巴水が突如スケッチに没頭。盟友ともいえる絵師に、庄三郎は黙って傘をさしかけていたとか。吹雪ふぶきにけぶる視界と、積雪のやわらかな感触を再現するために、版木をヤスリやタワシでこするといった方法も試みられました。川かわ面もの青緑には黄が混じり、ゆらめく光の反射も巧みに描かれています。かじかむ指で写生を続けた絵師の記憶そのものを、室内の丸窓からのぞき見ている気分になる。粋いきな構図です。(坂本恭子)
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下辺の題字の右上に「わ多奈遍」の印、左下に年記が見えます。「わたなべ」は、絵師・彫師・摺師の分業を大正期に復活させた木版画の版元・渡邊庄三郎です。12月7日の夕暮れ、巴水と庄三郎は銀座を歩いていましたが、三十間堀にいたったところで巴水が突如スケッチに没頭。盟友ともいえる絵師に、庄三郎は黙って傘をさしかけていたとか。
吹雪にけぶる視界と、積雪のやわらかな感触を再現するために、版木をヤスリやタワシでこするといった方法も試みられました。川面の青緑には黄が混じり、ゆらめく光の反射も巧みに描かれています。かじかむ指で写生を続けた絵師の記憶そのものを、室内の丸窓からのぞき見ている気分になる。粋な構図です。
(坂本恭子)